砂丘を舞台に数多くの傑作写真を生み出し、日本のみならず世界の写真史上に独自の足跡を残した植田正治(1913-2000)。時代の潮流であったリアリズム写真運動に与することなく、終生、生まれ故郷の山陰にとどまって「写真する」歓びを追求しました。そのモダニ ズムあふれる作品は、海外でもUeda-cho(植田調)と称され、国外で最も人気の高い日本人写真家の一人となっています。
青年期に西洋アヴァンギャルドの洗礼を受けた植田正治は、地元で写真館を営む一方、制約なしに自己の表現を追求するアマチュア精神を貫きました。自宅近くの砂浜に家族や身近な人々をあたかもチェスの駒のように配して撮影した〈演出写真〉の緊密な構図はもとより、70歳から取り組んだファッション写真「砂丘モード」シリーズや、その後の福山雅治のCDジャケット撮影によって、脈々と築き上げられた写真世界は世代を超えたファンの支持を集めるにいたりました。素朴な身の回りの風景や事物に徹しながらも、その写真は風土性や時代を超える普遍性をたたえており、見る者に新鮮な驚きと深い感動を呼び起こしてやみません。
2010年は植田正治の没後10年にあたります。日本で初めての大規模な巡回展となる本展では、植田正治の代名詞ともいえる砂丘を舞台にした作品から、再評価の契機となったファッション写真まで、初期から晩年にいたる代表作約200点を展示し、その表現世界に迫ります。故郷・鳥取県の植田正治写真美術館のコレクションに加え、没後に発見されたネガによる初公開作品も見のがせません。