イラン南部から興ったサーサーン朝(226~651年)はオリエントの大半をその支配下においた、アケメネス朝以来のイラン系王朝です。西方ではローマ、ビザンチン帝国、東方ではエフタルなどの遊牧民国家と対峙し、260年にはローマ帝国ヴァレリアヌスを捕虜としたほどの強勢を誇りました。またサーサーン朝の華麗な宮廷文化は周辺地域に影響を与え、中国ひいては日本の美術・工芸に多大な影響を与えたことはよく知られています。
シルクロードによる古代の東西交易の一端が実物によって明らかとなったのは1959年、イランの主都テヘランの古物商におけるカット・ガラス碗の発見に端を発します。東京大学イラク・イラン調査団団員だった故 深井晋司氏(元岡山市立オリエント美術館顧問)によって正倉院御物白瑠璃碗がサーサーン朝の所産であることが明らかになったのです。後に作家松本清張や井上靖がペルシアの文物を題材とした小説を発表するなど、シルクロードに対する関心が社会現象となった頃を記憶している市民の方も多いことでしょう。
本展では当館と岡山市立オリエント美術館が所蔵するサーサーン朝の文物を中心にサーサーン朝文化の精華を紹介いたします。あわせてペルシア文化が奈良朝の日本人や高度経済成長期の日本文化に与えた影響を考えあわせ、「日本人にとってのオリエント、ペルシアとは何だったのか」をひもときます。