21世紀を迎えた現代においても世界各地で戦争や紛争が続き、また先進国家においては人種・民族・ジェンダー・宗教・社会的階層による分断の構造が定着化している状況にあります。こうした困難な状況のなかで人々は精神の安らぎを求めるすべを見失いつつあります。
今回の企画展はこうした社会状況のなかで美術が人々に何をもたらすことが出来るかを考える中で生まれました。現代の美術の社会的機能として、人々に安らぎを与えるのと同時に生き方のヒントを指し示すことがあげられますが、本展のテーマである「祈り」はそのためのひとつの方法かも知れません。
出品作品はキリスト教、ヒンドゥー教、仏教などの宗教や人間をテーマとしたものが中心になりますが、ここでいう「祈り」とは特定の宗教や宗派を超えた人間の根源的な行為としての祈りを意味していることは言うまでもありません。このような宗教的・精神的な作品が作り出す空間に身を置くことによって、美術との新しい接点を体験していただくことを希望いたします。
なお本展は一部ゲスト・キュレーター制を導入し当ギャラリースタッフと学外の複数の有識者の考えを統合する形で実現いたしました。彼らをはじめ本展開催に対してご協力いただいた関係各位に対して深く感謝の意を表します。