戦後の愛媛を代表する画家・古茂田守介(こもだ・もりすけ/1918~60)。今年(2010年)はその没後50年にあたります。それを記念して、久万美コレクション展Ⅲ「古茂田守介没後50年 絵画の間-油彩と素描」展を開催します。
1918(大正7)年、愛媛県松山市に生まれた古茂田守介は、兄・公雄(きみお)の影響で絵を描き始め、やがて猪熊弦一郎(いのくま・げんいちろう)や脇田和(わきた・かず)に認められて本格的に絵画制作を始めました。戦中から戦後にかけて、画壇の流行であった抽象表現を主とするモダニズム絵画とは一線を画し、一貫して具象絵画の可能性を探求し続けました。しかし、1960(昭和35)年、生来の喘息のため42年の短い生涯を閉じます。
当館には、素描を中心に古茂田守介の作品が103点(油彩6点・素描95点)所蔵されています。素描家としても高く評価される守介ですが、一般に、素描は油彩などの下絵として副次的な扱いをうけることが多々あります。しかし、守介は膨大な裸婦や静物の素描を油彩同様の扱いで残しており、それらのほとんどにはサインが記されています。このことから守介自身が素描を大切にしていたことがうかがえます。
では、油彩と素描で表現されたものが同じかといえば、やはりそうではありません。古茂田の油彩は、人物や事物そして背景が面的な量塊をもって表現されることで、画面全体が一つの立体であるかのような実在感をもっています。一方、線でもって描かれた素描は、余白との関係から一つの実在感を生み出しています。古茂田にとって、油彩と素描の関係は、制作過程の痕跡を確認するものというよりもむしろ、異なる表現方法として両者を捉えていたのではないでしょうか。そして、この二つの表現は、時に交わり、時に遠ざかり、古茂田芸術の世界を広げる役割を果たしたものと考えられます。
油彩と素描-その間に広がる無限の地平、それは絵画そのものの可能性を指ししめすものなのかもしれません。そんな「絵画の間」に〈誘う〉のが本展覧会の目的です。