高橋禎彦(1958- )は多摩美術大学でガラス制作を学び、ドイツ・ラインバッハで研鑽を積みました。1985年神奈川県に工房設立、以後、個展やグループ展を中心に活動を展開し、現代を代表するガラス作家として国内外で高く評価されています。
これまで高橋は、キャスト(鋳造)や被せガラス、フューミング、サンドブラストなど、さまざまな技法を駆使してガラスの魅力を引き出してきました。しかし、なんといっても高橋の作品を特徴づけているのは、その高い技量と表現力で定評のある宙吹きによる制作ではないでしょうか。ふっくらとしたフォルムはいかにも軽やかで、ちょっと押したら変形しそうな滑らかな曲面でつくられています。でも実際の制作工程のなかでは、高温で溶けたガラスに触れることはできません。熱く、ドロドロとしたガラス種を金属の竿の先に巻き取り、少しずつ空気を吹き入れながらイメージをかたちにしていきますが、ガラスが冷え固まるまでの時間はごくわずか。ユニークで、見ているとウキウキするようなフォルムには、そんな制作工程のライブ感が息づいているのです。
このような高橋の仕事には、長らく戦後の工芸界で検証されてきた“器物vs.オブジェ”という図式は当てはまらないようです。一枚の皿や一個のコップを生みだす作業のなかで見出した造形の根源は、自由な創作にしっかりとした骨格を与え、枠組みに囚われない感性は、器のフォルムをより洗練させました。あるいは、形式による分類はもはや意味をなさないことを、高橋の挑戦は教えてくれているのかもしれません。
本展では高橋禎彦が手がけた1980年代から最新作までを並べ、工芸における造形思考の“進行形”をご紹介します。