木工の世界に独自の様式と表現とを拓いた田中一幸。東京藝術大学大学院工芸科鋳金専攻を修了後、金工制作と並行して1970年代中頃から木工制作にとりかかりました。その後、1986年より東京藝術大学美術学部工芸科教員として後進の指導にあたる傍ら、木工の新しい表現を模索し続けました。その根幹は伝統的な木工技術に依りながら、解体と独自の解釈により再構築されたものです。木を組んで立ち上がらせる、というきわめて根源的で熟練を要する技法を踏まえながら、結果を予想外の、気持ちのいい造形世界へ持ち込もうという、いわば不定形で成り立つ秩序を求めています。これらの作品は、用と技術から決別することなく、折り合いを保ちながら人々の心にもたらす「なにか」を探り続けた田中一幸の道程の、ひとつの答といえます。
本展は、2011年3月の退任を記念して開催します。従来の木工の持つイメージから解き放たれた、自由で心に響く造形世界をご覧いただけることと思います。初期から近作までの代表的な作品約30点によってご紹介いたします。
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