東山魁夷(1908-1999)は、昭和を代表する日本画家です。長野県のことを「私の作品を育ててくれた故郷」とも呼んだ魁夷にとって、中でも南信は思い出深い土地でした。大正15年、東京美術学校1年生の魁夷が信州の中で最初に訪れたのが、木曽路です。この旅で、都会育ちの魁夷は、初めて接した山国の自然の厳しさと、そこに住む素朴な人々の心の温かさに感銘を受けました。そして、その後は信州各地の山野や湖、そして高原へと旅を重ねることになります。魁夷が風景画家の道を歩むきっかけになるのが、この木曽への旅だったともいえるのです。
この展覧会では、東山魁夷の足跡を東山魁夷館所蔵の版画作品と資料で紹介します。「実際の作品を見る機会の少ない人達にとって、身近で額に入れて楽しむことの出来るのは有難い-という要望に応じているうちに、数が増してきたわけである」と自身で回想しているように、東山魁夷は、多くの版画作品を制作しています。代表作をはじめ、「北欧」、「京洛四季」、「白い馬の見える風景」などの連作、信州を描いた数々の版画作品を通して、東山魁夷の世界の一端に触れて頂ければと存じます。