今回は、不思議で独特な佐藤渓ならではの世界観を味わえる作品群を集めました。まさに、彼にしか現せないユニークな世界です。
渓は、第二次大戦終了後の昭和20年代から本格的に画業に専念しました。そして湯布院で没する昭和35年までのわずか十数年の間に、実にさまざまな画風の絵を描いています。それは、とても同じ一人の画家が描いたとは思えない多種多様さです。ある時は職人技のように繊細かつ緻密に、またある時は幼児のように純朴かつ大胆に、作品が表現されていきます。
渓が、いつどこで作品を描いたかは残念ながら、多くは不明なままです。がしかし、ひとつだけ私たちがその作品群に共通して感じ取れるものがあります。それは「そこはかとないさびしさ」です。二十代という多感な青春時代のほとんどを第二次大戦下の外地で一兵卒として過ごさざるを得なかった画家の、消し去ることのできない過去が垣間見えているような気がします。
どうぞ、その自由自在に変容していく絵と共に、一人の画家の模索と挑戦を、ご覧ください。