ハンス・コパー(1920-1981)は、バーナード・リーチやルーシー・リーと並ぶ20世紀イギリス陶芸界の巨匠として高い評価を受けています。
東西の陶芸文化に触れ伝統的な手法からやきものの美を追求したリーチとは異なり、リーやコパーの作品は、都会的なモダンデザインや建築空間を意識した作品であるといえるでしょう。とりわけコパーの作品は、ロクロによって成形され、表面の装飾により陰影をはらみ洗練された彫刻作品のたたずまいをみせています。こうした点からコパーは、うつわを超えて陶芸の新しい可能性の発見へと領域を広げた、陶芸の美的価値に新たな局面を開いた作家として、イギリスのみならず世界の20世紀における陶芸の展開に大きな足跡を残したといえます。
コパーは1920年、ドイツのザクセン州ケムニッツに生まれました。父親がユダヤ人であったことから、迫害から逃れロンドンに亡命し、第二次大戦中にさまざまな困難を乗り越えながらも、彫刻家になる夢を抱いていました。コパーに転機が訪れるのは終戦後、仕事を求めてオートクチュールのボタンづくりをしていたルーシー・リーとの出会いでした。その後、二人は終生深い友情に結ばれお互いに影響を与えながら、それぞれのスタイルを築いていったのです。
本展は、そうしたコパーの生涯と芸術を、日本で初めて紹介する大規模な回顧展です。素描やリーとの共同制作で知られるテーブル・ウェア、建築空間への陶芸からのアプローチ、ミケーネやエジプトなどのアルカイックな古代文明の作品に刺激を受け現代的な造形へと昇華させたキクラデスやスペード・フォームなど、初期から最晩年にいたるコパー芸術の全貌を、ご遺族のジェイン・コパー氏の全面協力を得て展観いたします。