平成23年春、奈良国立博物館では、中国・河南省の至宝を一堂に集め、中国文明の誕生と発展の軌跡を振り返る特別展「誕生!中国文明」を開催します。
河南省は、中国大陸を西から東へ流れる黄河の流域に位置する中国王朝発祥の地です。かつては幻の王朝とされ、近年中国最初の王朝であったとする説が有力となっている夏の中心地は、河南省にありました。以後、商(殷)、東周、後漢、魏(三国時代)、西晋、北魏、北宋などの王朝が河南省に都を置きました。夏が始まった紀元前2000年ごろから北宋が滅亡した12世紀ごろまで、河南省は中国の政治、経済、文化の中心地として栄えました。王朝、工芸技術、文字(漢字)など、中国文明を特徴づけるさまざまな要素が、この地で生まれ、発展したのです。
この展覧会は、三つのテーマで構成されます。第一部「王朝の誕生」では、文明の誕生と深い関わりをもつ古代王朝の誕生と展開の歴史を、王朝の権威を示す祭器や財宝によって明らかにします。第二部「技の誕生」では、豊かな暮らしへの願望から、中国文明の特色の一つである高度な工芸技術が次々に生まれていった様子を、精緻な工芸品によって示します。第三部「美の誕生」では、現実の世界や宗教的な世界を表した書画、彫刻などによって、中国芸術の伝統が遠い昔に生まれ、発展してきたさまを示します。
河南省と奈良の深いつながりは、唐の皇帝が造った洛陽・龍門石窟の大仏が、東大寺大仏と同じほとけ(盧舎那仏)であることに象徴的に示されています。奈良国立博物館は、省都鄭州市に位置する河南省最大の博物館・河南博物院と平成18年に学術交流協定を締結し、文化財を介した相互交流を深めてきました。協定締結から5年目にあたる本年に、質量ともに空前のスケールで同省の文物を紹介する本展が実現したことは大変喜ばしく、また意義深いことです。坐高2.4メートルに及ぶ唐代石仏の名作・宝冠如来坐像や、正倉院宝物を想起させる華麗な金銀器など、奈良の古代文化の源流を思わせる品々は、会場内で特に強い印象を与えることでしょう。
現代の感覚からみても新鮮な古代王朝の造形、漢字文化の奥深さを物語る文字資料…本展のみどころは実に多彩かつ豊富です。この他にも青銅器、陶磁器、漆器、壁画など約150件の名品を通して、壮大なる中国の歴史を体感していただければ幸いです。