獅子舞は、春の伊那谷に彩りを添える風物詩として、地元の人びとに親しまれています。古くは数少ない娯楽のひとつであり、舞いに参加する人たちも見物する人たちもみな、獅子舞の季節の到来を心待ちにしていたことでしょう。
当地域の獅子舞は、伊勢や尾張から伝わった「太神楽獅子」といわゆる「屋台獅子」に大別されます。なかでも、獅子頭の舞手や囃子方が獅子の胴体部分である幌を被った屋台の中に入って練り歩く「屋台獅子」は、伊那谷の獅子舞の大きな特徴でもあります。
この「屋台獅子」を特徴とする当地の獅子舞の多くは、平成24年(2012)に創建900年を迎える伊那谷屈指の古刹・瑠璃寺(下伊那郡高森町 天台宗)にルーツを求めることができます。特記すべきは、獅子を鎮める于闐王うてんのう(優塡王・宇天王)が登場するところにあります。文殊菩薩を乗せた獅子を制する役割を担った于闐王のイメージは、霊峰五台山(中国山東省)で育まれた文殊信仰とともに日本へともたらされました。
今秋、「第13回全国獅子舞フェスティバル・飯田市」がこの飯田市で開催されます。この機会をとらえて本展覧会では、獅子舞が伊那谷にひろまったようすを、獅子の信仰の源流にまで眼を配り、美術工芸品や映像などさまざまな獅子のイメージとともに跡づけていきます。そして伊那谷の獅子舞のルーツとその特質を浮き彫りにするとともに、獅子舞による地域おこしの気運が高まる昨今、現在進行形で生き続ける獅子舞の将来を考える契機となれば幸いです。