植田正治の晩年、1995年「ひと、たち。」「もの、たち。」と副題のつけられた2分冊からなる写真集(PARCO出版)が出版されています。植田の初期から晩年にいたる様々な作品を2つのキーワードにしたがってまとめられたユニークな構成になっています。
オブジェのように配された「ひと」、擬人化された「もの」、大胆な構図、ヒューマンなまなざし、植田正治の独特な感性が織りなす多彩なイメージは、さまざまな感情を我々に呼び起こしてくれます。
今回の展覧会は、この写真集をもとに、植田の写真における独特な表現、試みの数々を紹介します。
造形的な画面構成のなかに描かれる「ひと」や「もの」は、時に無機質でありながら、雄弁に観るものに語りかけてきます。旺盛な好奇心と実験的な試み、植田調ともいわれるオリジナルな手法で描かれる被写体は、画面を構成するひとつのオブジェでありながらも、特別な存在として輝きを与えられているかのようです。
植田のまなざしは、家族、山陰の風土や子どもたち、身の回りの何気ない風景や事物、そしてファッションなど、さまざまな被写体を単なる造形の対象としてのみ捉えていたわけではありません。そこに登場する「ひと」や「もの」は、造形的でありながら、どこか懐かしく、そして優しく、ユーモアと機知に溢れているのです。
写真集の2つのキーワード「ひと」と「もの」は被写体を単純に分類しているように思われますが、今回の展覧会を通して、それぞれの被写体に対して向けられた写真家の「まなざし」に共通する「変わらぬ何か」、「イメージの普遍性」を感じていただけることでしょう。