時代の乾いた雰囲気や、被写体との独自の距離感で知られるホンマタカシの写真。建築、波、東京の子ども、郊外風景など、さまざまなテーマを手がけ、その多くが長い時間をかけてシリーズ化されています。物語や感情を表現することを嫌い、被写体をただ映しとるというドライな視点は、表現か記録かを問われた時代から進んで、そのどちらに寄ることもない「ニュー・ドキュメンタリー」の名にふさわしいものといえます。ホンマは写真家としての活動をはじめた当初から、「ドキュメンタリーとしての視点」を持ちつつ、写真そのものに「アートとしてのアプローチ」をすることで、写真表現の持つ可能性に挑んできました。特に最近では、現実の世界や時代と向き合う一方で、より主観的な表現を追求したホンマの創作活動の幅は大きく広がってきています。
本展では、従来のプリントのみならず、写真を元にしたシルクスクリーン、双眼鏡でのぞき込んで鑑賞するインスタレーション作品、イメージを集積した本、絵画など、さまざまな手法やメディアを用いた最新作を紹介しながら、写真が映し出す現実を通して「見ること」の意味を考え、写真とはいったい何か、に迫ります。雪山での鹿狩りの痕跡を追った《Trails》や、それに主題を得た絵画作品、ライフワークとして東京の風景とひとりの少女を撮影しつづけている《Tokyo and My Daughter》や《Widows》は、主人公となる人間の家族アルバムから見つけた写真を再撮影し、写真に映る人々が向けた家族や親しい者たちへの視線に時を超えて介入していきます。新作《re-construction》はホンマが雑誌の表紙や編集を手がけたページの中面を再撮影し、本の体裁で作られた作品集で、展覧会のチラシやポスター、その校正刷りも含まれ、ホンマがさまざまな媒体を軽やかに横断する軌跡がよく現れています。