このたび、フィレンツェのウフィツィ美術館が所蔵する「自画像コレクション」を日本で初めてご紹介するはこびとなりました。
もともと“ウフィツィ(Uffizi)”はイタリア語で“事務所(Office)”を意味し、1581年に第2代トスカナ大公フランチェスコ1世・デ・メディチが政庁館(=ウフィツィ)に一族の収集品を陳列したことが、近代西洋最古の美術館ウフィツィの起源です。ルネサンス芸術を開花させた大パトロン、メディチ家ならではの名品群で有名ですが、なかでも1664年に第5代大公の弟レオポルドが創始した「自画像コレクション」は、強大な絶対主義国家が台頭した17世紀以降もフィレンツェが栄光を保つうえで重要な役割を果たしてきました。しかも、同時代の著名な美術家の自画像という今日まで一貫した収集方針と、1,700点を超える規模は、世界でも類をみません。
自画像コレクションの一部は現在、ウフィツィ美術館から観光名所ヴェッキオ橋の上を通り対岸のピッティ宮殿までのびる通称「ヴァザーリの回廊」に展示されています。初代トスカナ大公が政庁館と私邸の往来のために建造させたこの回廊は、美術館を含む中心市街とともに世界遣産に登録されているにもかかわらず、その入り組んだ建築構造のせいで見学が制限され一般に見ることができません。
本展覧会では、秘蔵に近い錚々(そうそう)たる巨匠たちの自画像から、ベルニーニやアンニーバレ・カラッチ、アングルなど16世紀から現代までのおよそ70点を選び、普段は作品の陰に隠れている美術家たちの素顔をご覧いただきます。あわせて、コレクションを通じてフィレンツェが “芸術都市”の名声を確立していく営為をひもといてまいります。