これまで多くのアーティストたちが、挿絵や装丁をはじめ、さらには本をテーマにして様々な作品を制作してきました。ところが今、本を取り巻く環境は、グーテンベルグが活版印刷を発明して以来の、大きな変革の過程にあります。たとえば電子書籍キンドルやグーグルのブック検索、さらにiPadの登場によって読書はもとより、従来の印刷製本や流通、配本をはじめ「本という経験」は、新たな地平へ移行しつつあります。そこでは読書という「思考」は、思考を欠いた知識の獲得、つまり検索という操作に取って代わられようとしています。このような時代にあってなお、アーティストたちは何故「本」や「本的なもの」に惹きつけられるのでしょうか。本が、人間の記憶や思考を外在化したものであるとすれば、本は姿を変えた人間のたとえであるとも言えるでしょう。現代のアーティストたちの関心は、本をめぐるこのような大きな変化を通して、人もまたどのように変ってゆくのかということにあるのかも知れません。
うらわ美術館は「本をめぐるアート」を収集の柱の一つとして活動をしていますが、現在、本のコレクションは1000件を超えています。本展では当館収蔵の作品に加えて、より広がり深化するブック・オブジェの数々や中堅・若手作家のインスタレーション作品を紹介します。それらを通して、「本ということ」の見えない側面に迫ろうとするものです。