オットー・ディックス(1891-1969)は、2つの世界大戦を挟む激動のドイツにおいて、人間存在の本質に迫った20世紀ドイツを代表する画家のひとりです。
魔術的レアリスムとも称される、その酷薄なまでに生々しい描写は、社会の実相と人間の本能をときに妖しく、そして冷ややかに暴きだします。
本展で展示される版画約90点には、画家にとって忘れ難いトラウマとなった第一次世界大戦の従軍経験が反映されています。さらに、やがて到来する「黄金の20年代」の胎動や、戦後の混乱が入り交じった都市の諸相が刻印されているのです。
「人間の狂気と獣性」、そして「虚無と退廃と背徳」。現実を直視し、ありのままに表現し続けた画家ディックスの、最も実り豊かな時代の作品はまさに必見といえるでしょう。日本では約20年ぶりのまとまった展覧となる絶好の機会です。