幕末・明治という時代は、日本の美術全般に大きな変革をもたらしました。中でも金工は、永く刀装金工を中心に発展し、幕藩体制の崩壊とともに大きな後ろ盾を失いました。職人たちは「金属による表現」という、それまでとは全く異なる技量を試されることになったのです。
帝室技芸員として金工界を牽引していった加納夏雄と、伝統的な刀装具の技を極めた後藤一乗(いちじょう)は、新しい時代にまったく異なる道を歩んだ双璧と言えるでしょう。彼らの技はその後の金工作家たちに受け継がれていきます。奈良派の彫金師・塚田秀鏡(しゅうきょう)、一乗の高弟・中川一匠(いっしょう)はじめ、格調高い美の世界を作り上げた海野勝珉(しょうみん)、明治後半期の彫金界をリードした香川勝廣(かつひろ)、鍛金作家の山田宗美(そうび)、猛禽類の鋳金作品で知られる鈴木長吉など枚挙にいとまがありません。また、岡山はモチーフを見つめる確かな目とユーモアで他の追随を許さない彫金家・正阿弥勝義(しょうあみかつよし)を生み出しました。
彼らの作品は、明治時代の工芸全般に特有の、モチーフのとらえ方にみるリアリズムと、細緻を極めたまさに“超絶技巧”というべき驚きの技に満ちています。こうした作品は、政府が日本の技術力を世界に示すため出品した数々の博覧会で披露され、諸外国を驚嘆させました。
本展は、幕末・明治美術のコレクションで知られる清水(きよみず)三年坂美術館の所蔵品を中心に、変革の時代に新たな芸術を目指した金属工芸の名品約170件を展示します。