鉄のハンマーで叩かれた鉄塊。寡黙だった表面は、波立ち、鈍い光を放っています。あるものは静謐なたたずまいを見せ、あるものは激しくざわめく・・・。そのとき、鉄は別のなにものかとなり、頑強でありながら光を湛えて、「生命」を浮かび上がらせます。
多和圭三(1952―)は、ひたすら鉄を叩くことで、鉄の表面にさまざまな表情を現出させます。鉄塊と向き合い、その内奥から溢れ出る何かを聞き取り、そして、語らしめるのです。
「刻む」「彫る」「形づくる」という彫刻の一般的な技法とは異なり、「叩く」という手法で生み出された作品。それは、今までの彫刻と一線を画するものとして注目されてきました。ときに視覚を優先させ形を重視し、あるいは概念的な造形に向かう「現代彫刻」とは一線を画して、多和の彫刻はあくまで身体から発せられ、身体へと向かい、触覚性を回復させる力を持っています。はじめは鉄の圧倒的な質料に対抗して力ずくで振り下ろされたハンマーは、長い時間を経て、鉄といかに対話するかという課題を模索しながら、多和の体を通しての思考そのものとなりました。
多和は、愛媛県越智郡大三島町(現在の今治市)生まれ。1971年に上京し日本大学芸術学部に学びます。1981年、真木画廊で初個展を開催。以来、鉄を叩くことを通して制作を続けています。
本展では、1970年代後半の初期作から最新作まで、各美術館所蔵作品、文化庁買い上げ作品などをはじめ、代表作を中心に、石・鉛など鉄以外の素材による作品、鉄を叩く以前の作品、野外展に参加した記録写真、ドローイング、制作過程の音と映像をあわせて展示・上映。そのユニークな仕事を、はじめて大規模な個人展覧会でご紹介します。多和圭三という希有な作家の仕事の本質にせまると同時に、最新の作品群に至るその道程を通じて、立体表現の同時代性についての思考を試みる機会ともなれば幸いです。
本展は三つの地方美術館の共同企画として構想され、準備されました。立地も建築空間もまったく異なる三つの場所で、多和圭三の作品は、それぞれの場所で新たな拡がりと意味をもつ空間をつくりだしながら、自らもまた驚くほど多彩な表情を示してくれるはずです。先行する足利・久万の会場でご覧になった観覧者にも、ぜひ「この場所」での一度だけの空間をご覧いただきたいと思います。