"わが国のモダニズム建築の揺籃期に、関西初の建築運動となった「日本インターナショナル建築会」を組織した上野伊三郎(1892-1972)は、ブルーノ・タウトを日本へ招聘した人物として、上野リチ(Felice ""Lizzi"" Ueno-Rix, 1893-1967)は、伊三郎と1925年に結婚後、日本へ渡り、ヨーゼフ・ホフマン率いるウィーン工房で培った創作理念をわが国へもたらした人物として、それぞれ日本の近代建築史やデザイン史に名前が刻まれつつも、ふたりの活動の全容はこれまでほとんど知られてきませんでした。
今春、目黒区美術館では、「上野伊三郎+リチ コレクション展」を開催し、上野夫妻の知られざる足跡に光をあてます。
本展の出品作品の核となるは、2006年度に京都国立近代美術館にまとめて寄贈された上野夫妻の作品資料群(京都インターアクト美術学校旧蔵)です。京都インターアクト美術学校は、1963年に上野夫妻が創設したインターナショナルデザイン研究所(のちにインターナショナル美術専門学校と改称)を前身にもち、小規模ながらも特色ある教育を行ってきた美術教育機関です。そして同校には、伊三郎の未公開の建築図面をはじめ、貴重な図書とともに、リチの作品のほとんどが、長年にわたり大切に保管されていたのです。さらに、この中には、「日本インターナショナル建築会」の機関誌『インターナショナル建築』も全29冊揃って含まれるなど、本作品資料群は、まさに「幻のコレクション」といっても過言ではありません。
本展では、この“コレクション”を中心に、上野伊三郎・リチ夫妻の活動の足跡を四つの章でたどります。
本展は、「ウィーン=京都」の両都市間で開花した上野夫妻の創造実践を、建築・デザイン・工芸などジャンルを横断した視点で再考し、あらためて綜合的にふりかえる貴重な機会となるに違いありません。"