中国・唐時代、水墨画は山水画を描く技法として成立しました。以降、水墨山水画は中国絵画史のメーンストリームとなりましたが、時代が進むにつれて人物画や花鳥画にも水墨が用いられ、宋時代(10~13世紀頃)には、さまざまなジャンルを担う一般的な技法として普及しました。
日本には12世紀末頃の鎌倉時代に禅宗とともに本格的に伝わり、14世紀には、可翁や黙庵といった画僧たちの宗教体験に基づいた作画が認められます。15世紀になると、道釈人物画の制作を主としてきた日本の水墨画は一変し、鑑賞芸術の対象としての水墨山水画を軸とした新しい展開が生まれ、如拙、周文、雪舟などによって、その全盛期が築かれました。以降、日本の水墨画は独自の展開を見せるのです。
本展ではまず、日本で水墨山水画が本格的に描かれ始めた応永年間(1394~1428)を出発点とし、日本の水墨画に大きな影響をおよぼした牧谿、玉澗らの中国水墨画も交えて、室町時代の水墨画を展観します。そして日本の水墨画表現が大きく飛躍した桃山時代の巨匠・長谷川等伯の屏風絵や、個性豊かな画家たちがさまざまな表現を試みた江戸時代の狩野派、琳派、文人画、さらには近代水墨画の富岡鉄斎の作品まで、出光コレクションによって日本水墨画の多彩な世界をご覧いただきます。
水墨画は、水、墨、紙(絹)という素材を使って、モノクローム表現を追求するものですが、古来やまと絵の色彩に親しみ、色とりどりの四季の風情を大切にしてきた日本人にとって、“墨に色彩を暗示させる”ことは重要な表現姿勢であったといえるでしょう。日本水墨画の多様な展開を追いながら、豊かな色彩を喚起する日本水墨画のみずみずしい輝きを堪能していただければ幸いです。