南フランスの小村サン・レオンに生まれたジャン=アンリ・ファーブル(1823-1915)が教師を勤めながら物理学、化学の普及書を著した後、様々な昆虫の観察をおこない、その生態の研究成果をまとめて発表したのが、有名な『昆虫記』(全10巻・1879-1907)です。
ファーブルは、ほぼ同時代のダーウィンによる『種の起源』とは別の立場に立ち、フンコロガシ、ゾウムシといった地味ながら奇妙な習性をもつ昆虫を独自の方法で観察し、それらの行動の謎を解き明かしました。日本でも、1922年(大正11年)に大杉栄が訳出した『昆蟲記』以降、ファーブルの『昆虫記』には数々の翻訳書、解説書が出版され、その謎解きの過程と叙述の面白さによって、研究者にとどまらない幅広い層に読み継がれています。そして、『昆虫記』の10巻目が出版されてから100年を経た今日でも、『昆虫記』とファーブルのまなざしは昆虫学だけでなく文学、芸術の分野にも有形、無形の財産を残し、新しい創作活動の源となっているのです。
『昆虫記』をはじめとするファーブルの著作の多くは、パリの出版人シャルル・ドラグラーヴが世に送り出しましたが、本展では、『昆虫記』の図版にも用いられたファーブルの息子ポール-=アンリ・ファーブルの写真など、ドラグラーヴ出版のコレクションを中心に、初公開の作品、資料を含めて約80点を展示いたします。さらに今回は、ファーブルに影響を受けながら、『昆虫記』の世界を独自の角度で捉えて表現している今森光彦の昆虫写真や『昆虫記』をテーマにしたフィギュアを用いたジオラマなどを加え、ファーブルと『昆虫記』の周辺を、その多様な作品と資料によって振り返ります。