世界に先駆けていち早く産業革命を成し遂げ繁栄を極めた19世紀半ばのイギリスでは、近代文明の豊かさとは裏腹に人々は精神性の喪失に不安を覚え、過ぎ去った中世に魂の理想郷を求めました。
美術の分野でも思想家ラスキンの唱える絵画理論に共鳴したハント、ミレー、ロセッティらを中心とする青年画家たちが、1848年に「ラファエル前派同盟 The Pre-Raphaelite Brotherhood」を結成し絵画の革新を夢見ます。彼らは、当時イギリス画壇が手本としていた16世紀イタリア絵画の模倣うを捨て、巨匠ラファエロが登場する以前の初期ルネッサンスに見られる、素朴で、自然に忠実な絵画を志しながら、聖書や古代神話、中世の物語に画想を得て制作を進めました。
やがてラファエル前派の運動は、モリス、バーン=ジョーンズら多くの周辺メンバーを迎えるなかで次第に象徴性と装飾性を強め、ベルギー、フランスなどの象徴はに多大な影響を与えるとともに、装飾美術の世界を巻き込んで、世紀末芸術やアール・ヌーヴォーの一大源流ともなっていきます。
本展では、このようなラファエル前派の発足から終焉までの流れを、おもにイギリス各地の美術館が所蔵するロセッティ、バーン=ジョーンズ、モリス等、約25作家100点あまりにより概観します。また、ラファエル前派からアーツ・アンド・クラフツ運動へと発展していくその後の展開をたどり、美術を通して精神性の充実を実現しようとした芸術家たちの試みを、現代にも通じる問題として検証します。