美濃加茂市民ミュージアムでは、「芸術と自然」をテーマに滞在制作、ワークショップや展覧会を通じて市民が美術に触れ合う場を提供してきました。今年度は、植物に着目した多様な表現に取り組む富山県在住の現代美術作家・川井昭夫(1948-年)を紹介します。
1970年代から、作家はテレビシーンや雑誌、写真の片隅に映っている観葉植物に興味を持ち、植物をテーマとした制作を始めました。1979年からは、麻布の地色に限りなく近づけた色の絵の具を用い、表面に筆触をのこす絵画を手掛けるようになります。その後、板の木目をなぞるように描く「Wood Painting」や、地表を覆う草の写真を用いて上から油絵の具で線や色をそのまま写すように描く「Photo Painting 叢」のシリーズを発表してきました。
また近年は石川県、富山県のある集落の民家を展示会場として作品を発表する「野積」というプロジェクトを展開しており、屋外でのインスタレーションも試みてきました。森の植物を植え替えたり、土を掘り起こしたりといった行為の痕跡が次第に地表に根付くことで川井の表現は完成します。今回の展覧会では、文化の森のアトリエ棟に滞在しながら、アートボランティアらとともに森の中で植物によるインスタレーションの制作にも取り組みます。
この展覧会では、川井昭夫の旧作と新作を併せて紹介します。これまでの歩みを辿ると同時に、現在の展開をみることができる貴重な機会となることと思います。作家の手によりつくられた表層とその奥に在る深み、展示室と森の中をめぐりながら、自然に寄り添うように積み重ねられてきた川井昭夫の世界を心ゆくまでお楽しみください。