不世出の日本画家・速水御舟(1894~1935)の画業を、茅ヶ崎とのかかわりに焦点をあてて展観する、ゆかりの地に所在する茅ヶ崎市美術館ならではの展覧会です。
御舟は茅ヶ崎で療養していた実姉の見舞いや、夏を過ごす家族に会うため、しばしばこの地に滞在しました。本展では、ここ茅ヶ崎で画想を得て制作した「落葉かく人の居る風景」のほか、師・松本楓湖からあたえられた画号・禾湖(かこ)の署名が記された新発見の作品や横山大観、菱田春草らが実践した朦朧体を用いてやわらかな雪に覆われた竹叢と家並みを描いた「暮雪」、のちに義兄となる吉田幸三郎を画中に描きこんだ「短夜」などで御舟芸術初期のあゆみをたどります。
また、再興第19回日本美術院展覧会に出品した代表作「花の傍」の本画と完成にむけて積みかさねられた写生や下図類、さらに御舟晩年の1934年に着手するも翌年の急逝によりついに未完となった大作「婦女群像」とその大下図などにより御舟作品の成立過程をご紹介します。なお、このふたつの作品にモデルとしてかかわった故・吉田花子氏はのちに氷室捷爾(しょうじ)氏に嫁ぎ茅ヶ崎に暮らしました。椿を愛した氷室夫妻の居宅は現在茅ヶ崎市に寄贈され、「氷室椿庭園」と名づけられて多くの市民の憩いの場となっています。
このほか御舟芸術の源泉となった写生類や、1930年にイタリアで開催された「ローマ日本美術展覧会」の美術使節として渡欧した際に、御舟自身が蒐集した美術写真や滞欧日記、家族に宛てた書簡など、御舟の関心や心情をよみとることができる資料をはじめ、御舟歿後に茅ヶ崎に移築された画室(非公開)で使用されていた制作用具や遺愛品、また御舟が茅ヶ崎海岸で詠んだ短歌の自筆稿などもあわせて展示します。