紙に、木炭や鉛筆が触れると、粒子が定着する。そのようにしてイメージが生まれるドローイングでは、触覚を働かせながら、微細な物質への意識を研ぎ澄ますことが必要となってきます。そしてそれゆえに、文字通り「手探り」でなにかを摑みたいと考えている芸術家にとって、ドローイングは、大事な探求方法となるのです。
たとえば吉田克朗(1943-1999)。指を使って描かれた形は、粘土のような立体感と雲のような流動性を兼ね備えています(なお出品作品は、ドローイングではなくて、リトグラフ、つまり版画になります)。
アブラハム・ダヴィット・クリスティアン(1952- )は、イメージに存在感を与えようと、紙が破れるのもかまわず、イメージの輪郭に筆圧をかけていきます。
小林正人(1957- )には、描く対象を、形あるものではなくて、明るさを持つものとして捉えなおそうとする意志を見出すことができます。
こうした「手探り」の感覚は、明晰に見ることが要求されているいつもの美術館の空間では把握しづらいかもしれない。そう考えて本展では、薄闇の中で作品を見る機会を特別に設けることとしました。