イギリスを代表する絵本作家、エロール・ル・カインは、1941年、シンガポールに生まれました。その後、1歳からの4年間をインドで過ごし、15歳の時にはアニメーションを学ぶ機会を得て単身イギリスに渡ります。以後、アニメーターとして活躍する一方で、絵本作家として48冊の絵本を残しました。
いくつかの土地や文化のなかで彼が目にしたもの、得たもの。それはインドの通学路で眺めたタージ・マハールのエキゾチックな風景、家のすぐ隣にあった映画館で見たきらびやかなハリウッド映画、アニメーターとしての視点で培われた色彩感覚や場面構成……。自らを「借りもの上手のカササギ」と言った彼は、優れた感覚であらゆる美しいものを取り込み、記憶にあるそれらを自在に引き出し、巧みに組み合わせ、多彩な画風で作品を作り上げました。こうして生まれた彼の絵本は、時に西洋、時に東洋の雰囲気を醸し、細密に描かれた優美で絢爛な画面や登場人物たちは、映画や舞台のそれを想起させます。
彼の死後、散逸を防ごうと始まった絵本原画やスケッチ、アニメーションの背景画などのコレクションは、年々、数を増し、現在、その数はおよそ250点。本展では、そのなかから近年に収蔵した作品を中心に、およそ100点を展覧します。国内外随一といえるコレクションの多くに出会える数少ないこの機会に、出色の作品の数々をぜひご覧ください。