新派俳優・花柳章太郎(はなやぎ・しょうたろう1894-1965)は、明治から昭和にかけて演劇界を牽引し、劇芸術としての頂点を極めた名優です。
喜多村緑郎に師事し、女形としての華麗な芸を追及する一方で、男役や老け役もこなし、数多くの名舞台をつとめました。また、晩年には重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、日本芸術院会員、文化功労者にもなっています。
花柳章太郎は演劇だけではなく、人形、絵画、染色、七宝随筆、俳句など、多くの芸術に秀で、玄人はだしの作品を残したことでも知られています。こうした活動を通じて、俳優や劇作家などの演劇関係者はもちろん、画家、文学者、舞踊家、茶道家など非常に幅広い交友関係を築いたことからも、その志の高さや人柄を偲ぶことができます。
また花柳章太郎は、文京にゆかり深い人物でもあります。幼少期から壮年期までを湯島に暮らし、湯島小学校、本郷高等小学校に通い、明治後期に新派の牙城であった本郷座にも出演しました。
本展では、花柳章太郎の演劇活動をはじめ、幅広い芸術と交友関係を紹介します。没後約45年を経て、惜しくも人々の記憶から遠くなりつつある花柳章太郎の優れた芸を、関係資料の展示を通じて改めて見直します。そして花柳章太郎が「故郷」と呼ぶ湯島、文京とのかかわりにも注目していきます。
なお、展示資料の核となるのは、平成16年度及び21年度に本区に寄贈された花柳章太郎関係資料(林靖治氏寄贈)です。5000点を越す、この貴重な収蔵資料の存在を、区民の皆様をはじめ多くの来館者に披露する機会といたします。