絵画の本質を粘り強く探求し続けた画家、麻生三郎(1913-2000)。彼の絵は、一見したところ、とっつきにくいかもしれません。けれども、見れば見るほど、彼の絵は多くを語りかけてきます。時間をかけて、じっくり味わう絵画。その豊かな世界をご紹介します。
東京に生まれた麻生は、初めは前衛的な絵画に関心を持ちますが、1938年ヨーロッパを旅して写実の重要さを再認識します。1943年には靉光や松本竣介らと「新人画会」を結成し、戦時下の困難な状況においても個としての表現を貫きました。そして戦後は、《赤い空》の連作に代表されるような、人間存在の革新に迫る表現を切りひらきました。
麻生の作品に描かれる人体は、周囲の空間に押しつぶされそうになりながらもその存在を主張し、濃密なせめぎあいが画面に生まれます。混沌とした画面から浮かび上がってくるその姿は、人がこの世に存在することのかけがえのなさを、見る者に訴えかけてくるでしょう。
麻生がこの世を去って10年、わかりやすさや表面的にキレイでカワイイものがもてはやされがちな今日だからこそ、その重厚な作品世界を改めて見直してみたいと思います。本格的な回顧展としては実に15年ぶりとなるこのたびの展覧会では、初公開作品を含む油彩、素描、立体あわせて約130点により、その今日的意義を探ります。