本展は、芦屋に生まれ終世この地で洋画家として活動するかたわら、大阪市立美術館付設美術研究所で後進の育成にも尽力した天王寺谷卓三(1919-1990年)の画業を振返る初回顧展です。
天王寺谷は、約600年以上前から続く旧家の第27代目として生まれました。幼い頃から絵が得意だった天王寺谷は、中学校卒業後に当時の関西洋画壇を代表する画家・林重義に師事、関西学院大学では学内の絵画部・弦月会に加わりました。1943年、第6回文部省美術展覧会に、阪神間の山手の風景を描いた《へルマン屋敷近郊(六甲)》で入選、また同年大阪市教育委員会に職を得て、大阪の文化行政に携わるようになります。そして終戦まもない時期から大阪市立美術館付設美術研究所の設立に奔走し、1946年の開設時よりその運営に携わりながら、画家として研究生に助言を与えました。彼らには写生の重要性を説き、共に日本各地を訪れて現場での絵画制作を積極的に進めました。
その中で描かれた風景画の多くは山岳と海岸をモティーフにしたもので、それぞれの土地に固有の風土を見極めようとした天王寺谷の強いまなざしを感じさせます。本展では、画家として活動を始めた1940年代半ばから、晩年の1980年代にいたるまでの約40年間に手がけた絵画・素描約90点を通して、天王寺谷が求めた「風土」を再発見すると同時に、土地に根ざすことの大切さを改めて見直します。