この展覧会は、国内でも有数の質と量を誇る創作版画コレクションを有する和歌山県立近代美術館の所蔵品を中心に、貴重な個人コレクションもまじえ、1900年代から1940年代までの名品およそ400点を一堂に展観するものです。1904(明治37)年、山本鼎が自ら木板を刻んだ作品を文芸誌『明星』に「刀画」として発表しました。美術家が筆を彫刻刀に持ち替えて作り出す、美術表現としての「創作版画」の探求が始まったのです。1910年代、ヨーロッパの同時代美術がさかんに紹介されるようになると、その影響を受けた多くの若い芸術家たちが版画という手段に個性の表現の場を求めます。そのひとつの頂点と言えるのが版画集『月映』でした。孤独な魂を見つめる彼らの表現は、現代の私たちにとっても深い共感を呼ぶものでしょう。1920年代になると版画家たちのネットワークは全国各地に拡大していき、宇都宮もそのひとつの中核となりました。また1930年代には、プロレタリア運動と接近して労働者や工場街など都市をテーマにした作品が生まれます。戦後、日本の版画家たちは国際的な美術展で受賞を重ね、現代美術をリードする活発な時代を築くことになりますが、明治末から戦前昭和にかけて生み出された創作版画は、そうした活躍の地盤をつくった日本近代の青春とも言えるものでした。