「赤富士」の名で知られる「凱風快晴」、大波の轟く「神奈川沖浪裏」、そして漆黒の富士山が佇む「山下白雨」。この三枚の絵は、世界でもっとも有名な浮世絵と言っても過言ではありません。これらの絵が含まれる『冨嶽三十六景』のシリーズは、天保(1830-44)初年頃、浮世絵師葛飾北斎(1760-1849)によって作成されました。
北斎は、『冨嶽三十六景』を制作する以前、西洋絵画から透視図法や陰影表現を学び、銅版画風の風景版画を作成していました。しかし、『冨嶽三十六景』では、季節や時間の変化を織り込んだ、北斎独自の心象的な風景画スタイルの確立を見ることができます。
本展覧会では、北斎の風景版画の代表作『冨嶽三十六景』を全揃いで展示するとともに、富士山を描いた版本『富嶽百景』(3冊)や、北斎が風景版画に傾倒した天保(1830-44)前期の作品を展示します。富士山や雄大な日本の景色を描いた数々の風景版画から、北斎の新たな魅力を発見していただければ幸いです。