鳥瞰・俯瞰の絵画は、ふだん私たちが目にできない鳥が空から見下ろしたような風景が描かれます。それは現代の地図のように正確さに徹底したものではなく、特に江戸時代後期以降の浮世絵は描く絵師の発想や技術に溢れ、大衆を楽しませる娯楽のひとつでした。
古くは奈良時代にまでさかのぼる鳥瞰・俯瞰の視点は、「洛中洛外図」など空間と時間を表現するまでに発展します。江戸時代後期には、これまでの視点に西洋の遠近法を取り入れた新しい空間構成が試みられ、歌川広重に代表される絵師たちが、抒情的な風景画や活気ある人々の暮らしを写した作品を多く遺しました。
また絵画だけではなく、地図や旅行ガイドとしての鳥瞰図・俯瞰図も描かれ、多くの絵師が「絵画と地図のあいだ」ともいうべき絵地図を描きました。安政6年(1859)の横浜開港以降は、日本に訪れた新しい時代を写した「横浜浮世絵」が五雲亭貞秀らによって描かれ、人々を文明開化へと誘ったのです。
本展では、江戸時代後期から明治の浮世絵版画を中心に、江戸の賑わいと東北の風景、華やかな横浜の風俗を鳥瞰・俯瞰の視点でご紹介します。各地の名所を空飛ぶ鳥になった気持ちでご鑑賞下さい。