表現の新しい地平を開拓し続ける画家、浦野資勞(うらのしろう)(1952~)氏の代表作「フラクタルシリーズ」をご紹介する展覧会です。氏は1991年、フラクタルとの衝撃的な出会いを機に、カオス(混沌(こんとん))、宇宙、ビッグバン(大爆発)などを作品テーマとして、大作を発表してきました。
フラクタルとは20世紀後半に発見された新しい幾何学のことです。自然や人体の一見でたらめで複雑なかたちにも規則性があることを証明し、私たちの世界観を一変させました。浦野氏の「フラクタルシリーズ」はこの新知見に触発されて制作されたものです。
煌めく光、輝く色彩、渦巻く乱流。画面はこれらが響きあって凄まじいエネルギーを発しています。観る者を勇気づけ、ふるい立たせてくれるようです。作品は、困難な時代を生きる私たちへの作者からの励ましでもあるのです。
計算づくでなく、偶然性にゆだねられて生まれた「フラクタルシリーズ」。それは意識と無意識、カオスと秩序が共生する世界です。この揺らぎのあるフラクタルな状態にこそ浦野氏は宇宙の真理を感じ、人間存在を重ねています。
当ロマン美術館を設計した黒川紀章氏もまたフラクタルに魅せられた一人でした。館内には所どころこの数学が応用されています。黒川氏の没後3年目にあたる今年、フラクタルを接点に異なる二人の個性が出会い、一体となって展示空間を創出します。建築と絵画作品をあわせてご堪能いただければ幸いです。