「現代アジアの作家シリーズ」は、「福岡トリエンナーレ」では紹介できなかった若手・中堅の実力派を個展形式で紹介するもの。シリーズ第1回展は韓国のイー・ブルをとりあげたが、今回はインド現代美術で新たな傾向をしめすスダルシャン・シェッティ(1961~)を紹介する。
シェッティはインド西海岸の大都市ムンパイ(ボンベイ)を拠点に、彫刻やインスタレーションを手がける作家で、90年代から本格的な制作活動を展開してきた。近年でも、韓国の「光州ビエンナーレ」(2000年)やイギリスのテート・モダンで開催された展覧会「センチュリー・シティ」(2001年)に参加するなど、インドを代表する作家のひとりとして注目を集めている。
20世紀のインド美術はナショナリズムの追求という社会的な要請に否応なく巻き込まれてきたが、シェッティの作品ではむしろそうした政治性から解放された、自由で遊戯心に富んだ誌的世界が表現される。また、その作品世界には現代の都市生活がふんだんに参照されるが、ここでもシェッティは子供時代の懐かしい記憶や好奇心に満ちた遊び心を刺激することで、世界を均質化しようとするグローバリズムからも巧みに逃れ、政治・経済主導の価値体系を無邪気に転覆させようとする。
こうしたシェッティの「遊び」は、すべての枠組みから逃れようとすると同時に、散在する日常の断片を回収し、それらを編集・加工することにより、様々な現代都市の位相を重ね合わせようと試みる。そして、こうして出来上がった遊戯空間には、新たな可能性への期待だけでなく、非合理性や未知の領域への不安、あるいは現代社会や遊びにひそむ不気味さが投影されることになるのだ。
本展では、椅子や机、ボート、弦楽器、飛行機などが機会仕掛けで動く、新作の立体作品が登場する。これらの立体作品で構成されたインスタレーション「ここで、それともどこかで(For Here or To Go)」において、シェッティはとこまでも変転する新たな物語を紡ぎだそうとする。
展示作品
①新作インスタレーション「ここで、それともどこかで(For Here or To Go)」
→立体作品5点により構成
②立体作品「家庭(Home)」(当館所蔵作品)