「樹皮紙」とは、木の皮をたたきのばしたシートです。繊維を水に分散させたものを漉きあげるという定義からすれば、厳密な意味では「紙」ではありません。樹皮紙は文字を記す書写材料、いわゆる紙としての用途だけでなく、衣服の素材として、神聖な儀式で用いるものとして、「布」のような用途も持っています。現代では、紙と布は明確に区別されたものとなっていますが、その昔は両者はとても近い存在であり、原料も、製作道具も同じだったのです。
これまでは、日本・韓国などの東アジアとシルクロード沿いを除いたアジア地域は、中国で発明された、「漉いた紙」の伝播ルートからはずれ、紙の文化のない暗黒地帯のような印象が持たれていました。しかし実際には、「樹皮紙」の文化が高度に発達し、オーストロネシア語族によって海を渡り、赤道沿いに広がっていたのです。特に、インドネシアには樹皮紙文化が新石器時代から現在に至るまで、脈々と伝えられています。
この企画展では、樹皮紙研究者・坂本勇氏の収集したイスラム教の樹皮紙製の文書(ダルワン)や製作道具(ビーター)、透かし入り樹皮紙など、貴重なコレクションを展示します。これら資料は今年夏には日本を離れるため、国内で最初で最後の公開となります。「漉いた紙」とも見間違えるような仕上がりの樹皮紙や、近年ようやく復元にまで至った樹皮紙絵巻「ワヤンべベール」など、従来の樹皮紙のイメージを覆すような資料の数々を、ぜひご覧ください。