肩書きを列挙すれば、詩人であり小説家、染織工芸の研究者であると同時に作家、インテリアデザイナー、カリグラファー、アートディレクター、実業家、出版プロデューサー、社会主義運動活動家、古建造物保護活動のリーダー...等など。多岐にわたる分野で活躍し、並の人間十人分以上の人生を生きた19世紀英国ビクトリア時代の巨人にして「近代デザインの父」と讃えられるウィリアム・モリス(1834-1896)。その業績の一端を紹介いたします。
ロンドン近郊ウォルサムストウの裕福な家庭に生まれたウィリアム・モリスは、はじめ聖職者となるべくオックスフォード大学で学びますが、やがて宗教から芸術へと関心の幅を広げ、建築を志すようになります。大学時代に知り合った終生の友であり、のちに後期ラファエル前派の中心的画家となるバーン・ジョーンズ(1833-1898)ら数人の仲間と、室内装飾を手がける会社「モリス・マーシャル・フォークナー商会」を設立、生活空間を彩る品々---教会建築のステンドグラス、家具、テキスタイルや壁紙などの染織工芸品---を世に送ります。
モリスたちが生きた時代、イギリスは産業革命を成し遂げ世界最初の工業国となったのですが、それによって万人が物質的な豊かさを享受することが可能になった一方で、大量生産される品々の販路拡大と商業的な利益が優先され、その結果俗悪粗悪な製品が巷に蔓延するというあいにくな現実をも呈していました。モリスが目指したのは、生活空間全体の芸術化、そしてモラルを失った商業主義に異を唱え、中世の職人社会がそうであったような、手仕事と共同作業による、作る側にも使う側にも喜びとなるようなものづくりのありかたでした。
モリスが中心となって推進した手工芸品製造の理念はアーツ・アンド・クラフツ運動という大きなムーヴメントへと発展し、それはやがて世紀末ヨーロッパを席巻することになるアールヌーヴォー様式や、20世紀初頭のバウハウスに代表される近代デザイン、日本の柳宗悦らが唱えた民芸運動の源泉となったのです。モリス自身や仲間たちがデザインした壁紙やテキスタイルのパターンは脈々と受け継がれ150年経った現在でも私たちの暮らしのそこかしこに潤いをもたらしているのです。
本展はテキスタイル、壁紙パターン、装飾タイル、家具、装丁書籍や、ステンドグラスを精巧に再現したレプリカ・・・