平成20年度に新収蔵した≪東海道五拾三次之内≫を全点揃い(56点)で初お披露目する展示会です。
佐野屋喜兵衛版≪東海道五拾三次≫は、画中に狂歌が添えられていることから「狂歌入東海道」とも呼ばれています。本シリーズは、作品の状態から、もとは56点揃物を画帖にして保存していたとみられ、最初の日本橋と最後の京内裏は他の図にくらべ、紙焼けや毛羽立ちなど作品の状態に差がみられます。当館所蔵の本シリーズは、全図を通じて緑色の美しさ、狂歌部分の版のシャープさが際立つ点に特徴があります。
広重の出世作である「東海道五拾三次之内」(「保永堂版」天保4(1833)年頃)が刊行されてから数年を経て、他の版元からも東海道シリーズが刊行され始め、広重は東海道絵の揃物を約20種類ほど制作するに至ります。
その端緒となった作品が、「狂歌入東海道」です。本シリーズは日本橋から京都までの各宿場を描きながらも、「京」を三條大橋と内裏の2図とし、計56点からなります。このシリーズは一般的な浮世絵版画のサイズである大判錦絵の半分サイズにあたる中判錦絵であり、偶数枚数とすることで紙の無駄が出ることを防いでいます。また画中に狂歌を寄せた各狂歌師には掲載料を負担させ、出版資金の一助としたとみられています。
「保永堂版」という大ヒット作に続く、新たな東海道絵の刊行は、けして「売れることが見込める自信作」として安易に企画されたのではなく、このようにコスト面でかなり慎重な姿勢がとられていたことがうかがわれます。