1980年代初め、後にトレードマークとなるダンボールを素材とした作品でデビューして以来、日比野克彦は、軽やかなフットワークで活動の幅を広げ、1995年、第46回ヴェネツィアビエンナーレに出品するなど、現代の日本のアートシーンを代表するアーティストである。
絵画、オブジェ、舞台美術、パフォーマンス、映像、デザインと日比野の作品の幅は極めて広い。個性的かつ多彩に広がるこれらの作品群は、彼の類まれなる資質から生み出されたものに他ならない。しかし一方で、日比野を語るとき、アートに様々な表現の形を要求している現代の社会状況を見逃すことはできない。バブル経済の絶頂と崩壊、コンピューターの普及、歪んだ人間関係など、20世紀後半、時代の大きなうねりの最先端を鋭い洞察力と旺盛な好奇心をもって走りつづけてきたパワーも日比野の魅力の一つと言って過言ではないだろう。
本展では、日比野の若々しい感性がみなぎる初期のダンボール作品、テレビや雑誌などまさに時代の寵児としてメディアを駆け抜けた80年から90年にかけての多種多様な作品群、環境問題など現代社会の歪みや、人と人の出会いにテーマを求めた90年代後半以降の作品など、過去20年間に及ぶ活動を展示することにより、常に時代と交信しながら進化しつづける日比野克彦の表現世界を紹介しようとするものである。
また、本展のために制作された新作は、日比野克彦の表現世界の今現在の到達地点を露わにするとともに、日比野芸術の次なる次元への進展を予感させることだろう。