馬は、古来人間にとって大切は移動手段であり、洋の東西を問わず英雄たちの騎馬姿が絵画や彫刻で制作されました。その数ある騎馬像の中でも、ドイツの《バンベルクの騎士》に感化されて「馬と騎手」を題材にし始めたのが、20世紀を代表する彫刻家マリノ・マリーニ(1901-1980)です。
マリーには、イタリアのピストイアに生まれました。16歳でフィレンツェの美術学校に入学し、最初は絵画を学んでいましたが、彫刻を志すようになります。古代ギリシア・ローマ以前のエトルリア美術に影響を受けたマリーには、素朴で力強く、生命力のある彫刻を生み出し、20代の頃から国際的な美術展に出品するようになります。そして1952年のヴェネツィア・ビエンナーレで彫刻大賞を受賞すると、その地位を不動のものとします。その後は亡くなるまで欧米を中心に活躍しました。
マリーニが制作する「馬と騎手」は、勝利を携えて凱旋する英雄ではなく、戦争で疲弊した兵士であり、ある時は物資文明に蝕まれる20世紀の人類の悲劇的な姿であり、またあるときは聖書中の奇跡のドラマを表したものです。この展覧会では、当館が所蔵する彫刻1点と版画約30点を展示し、マリーニの世界をお楽しみいただきます。代表的なモチーフである騎馬隊や馬に込められた、様々な想いを感じていただければ幸いです。