『源氏物語』は、千年前に著された当時から、名場面の絵画化がおこなわれてきました。近年では国宝源氏物語絵巻の一場面が新二千円札に刷られて話題を呼んだほどです。王朝文化の粋に注目が集まる中、1998年に全10巻が刊行された瀬戸内寂聴現代語訳『源氏物語』は、二百二十万部を超えるベストセラーになり、日本はおろか、海外まで、空前の源氏物語ブームを巻き起こしました。この平成の『源氏物語』全五十四帖の装幀画すべてを制作したのが、日本画家石踊達哉画伯です。1945年(昭和20年)中国旧満州に生まれ、18歳まで鹿児島で育った石踊画伯は、東京芸術大学大学院を修了後、創画展を中心に作品を発表し、現在では無所属となって個展などで意欲的に作品を発表しつづけています。1988年以来、パリにアトリエを構え、パリ・東京を行き来する精力的な活動を展開し、1999年には「両洋の目 現代の絵画」展で河北倫明賞を受賞するなど、21世紀を担う日本画壇の気鋭として期待を集めています。
瀬戸内寂聴現代語訳『源氏物語』で、画伯は54帖55場面を、古典の模写に近いものから、抽象絵画、あるいはグラフィック・デザインと呼べるものまで、実に幅広い多様な表現で描き分けました。優艶、典雅な色彩と流麗な線によって花鳥画の世界に新風を吹き込んだそれらは、平琳派と呼ばれるのにふさわしい伝統と革新が共存したものといえましょう。このたびの展覧会では屏風を含む28点が出品され、それぞれの情景に対応する瀬戸内寂聴現代語訳『源氏物語』抜粋を並列展示し、絵と言葉が一体となって描き出す王朝絵巻の神髄をお楽しみいただきます。