山本有三(1887-1974)は劇作家として出発し、大正後期に「生命の冠」「嬰児殺し」「坂崎出羽守」「同志の人々」などの力作を発表しました。劇作家としてゆりぎない地位を確立した有三は、友人菊池寛の強い勧めにより小説の世界へ進出します。
有三初の長編小説「生きとし生けるもの」は、1926年9月から12月まで朝日新聞に連載されました。当時の風俗を取り入れつつ、貧富の種々相を対比的に描いたこの作品は好評を博し、第二作「波」も1928年7月から11月にかけて同紙に連載されました。我が子の出生の疑惑に苦悩しながら生きる小学校教師の物語は大きな話題を呼び、主人公の内面の発展を描いた教養小説として、有三の代表作の一つに数えられています。
本展ではこれらの作品世界を、直筆原稿や映画資料などを通してご覧頂くと共に、小説家・山本有三の誕生や連載小説の直筆にまつわるエピソードをご紹介します。また、常設展示「有三の生涯」の展示替えを行うほか、建物の歴史を辿る一室を設けます。有三が暮らしていた西洋館で、有三の作品世界と建物の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。