享保5(1720)年の蘭学一部解禁以来、西欧文化に近付こうと多くの画家たちが西洋画に倣った作品を制作していましたが、それらは日本画の範疇を大きく出るものではありませんでした。しかし、高橋由一(1828-94)の出現により、日本の近代洋画の歴史は大きく動き始めます。由一は下野国佐野(現・栃木県)藩士の嫡子として江戸で生まれながら、画業の道を志し、初め狩野派に学び、後の幕府の蕃書調所画学局で洋画家・川上冬崖に師事しました。その才能は、慶応2(1866)年に『イラストレーテッド・ロンドン・ニューズ』の特派記者として横浜に滞在していたチャールズ・ワーグマン(1832-91)と出会ったことにより開花します。翌慶応3年にはパリ万国博覧会に、明治6(1873)年にはウィーン万国博覧会に出品。門弟も多く養成し、日本の洋画界に大きな足跡を残しましたこの流れは、明治9(1876)年に設立された工部美術学校の外国人教師であるフォンタネージやその後任カペレッティらに学んだ弟子たちを経て、黒田清輝(1866-1924)を中心とした白馬会の画家たちにも大きな影響を与えました。本展では、ヤンマーディーゼル(現・ヤンマー株式会社)の創始者である山岡孫吉氏(1888-1962)により蒐集された山岡コレクションを中心に、黎明期に重要な功績を遺した高橋由一をはじめチャールズ・ワーグマンから黒田清輝、藤島武二、栃木市出身の橋本邦助、大正時代に活躍した画家たちまでの作品およそ50点を展覧し、日本の近代洋画の軌跡を辿ります。