中村研一(1895-1967年)は大正から昭和にかけて活躍した洋画家で、帝展や日展などいわゆる官展系を中心に発表を続けました。その堅実・明快な写実は昭和新写実時代を担うものとして高く評価されています。リアリズムの画家中村の本領が発揮されたひとつが人物画です。本展覧会では、パリ留学時の婦人像や新婚時代に描いた義父の肖像など初期の作例から、生涯を通し繰り返し描いた富子夫人像、そして晩年まで制作に挑み続けた裸婦像まで、中村の画歴を人物画に着目し展観します。
中村の画業のなかで特筆されるのが戦争画です。確かなデッサン力、なかでも卓越した群像表現の技量が問われます。中村は多くの戦争画を描きますが、当館コレクションの特徴は、その制作にあたり描きためたエスキース(画稿・構想図)や、戦地でスケッチした兵士像などが多いことです。本展では、これら展示機会の少ない貴重な資料とともに、新たに所蔵となった戦争画≪シンガポールへの道≫(1943年)を特別展示いたします。