長澤英俊はイタリアを拠点に活躍する世界的な彫刻家です。1940年に旧満州(現中国東北部)で生まれた長澤は、母の故郷埼玉県川島町で育ち、多摩美術大学に学びました。在学中から旅を繰り返していた長澤は、1966年に日本を発って東南アジア、中近東を自転車で横断。1年後に到着したミラノにそのまま住みつき、同時代のイタリアの芸術家と交流しながら本格的な活動を始めます。
最初期にはオブジェによる作品を制作していた長澤は、1970年代に入ると大理石やブロンズといった素材を用いて彫刻的な表現へと向かいます。彫刻の原点を問い直すような制作を通して、次第に独創的な手法が生み出され、豊穣なイメージと壮大な構想を感じさせる作品へと結実していきます。それらの作品はヨーロッパで高く評価されるようになり、ヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタなどの主要な国際展でもたびたび紹介されてきました。近年は重力や力学の原点を応用しながら、独特な構造を持つ作品を数多く手がけています。
長澤の作品では、かたちとイメージ、時間と空間、眼に見えるものと見えないものの関係が深く考察され、それらがある時は詩的に、ある時は明快にあらわされています。その鋭敏な洞察力と豊かな感受性によって生まれる芸術は、作者の語る「イデア」の世界を私たちに鮮やかにもたらしてくれるに違いありません。
旧満州からの引揚げの際、長澤は佐世保から日本に上陸しました。上陸許可が下りるまでの長い間、碇泊する引揚船の上から来る日も来る日も眺めた佐世保の山々の稜線は、今でもくっきりと長澤の瞼に焼き付いているといいます。以来、世界中を巡り歩きこれまでに長澤が目にしてきたものは如何なるものであったのか。この長崎の地でぜひご確認ください。