青森を拠点とする注目すべきアーティストを紹介する展覧会シリーズ。
第6回目は小原流華道家、辻綾子の展覧会を開催します。辻は近年、ホタテの稚貝を無数に用いた造形作品を制作し、高い評価を受けています。薄桃色、紫、茶。人々がホタテ貝に持つ単一的な白のイメージとは異なり、実にさまざまな色彩のグラデーションが存在します。そして、貝を無数に積み重ねることによって生み出される陰影とフォルムは未知の生き物を思わせます。対象に新たな命を吹き込み究極の美へと昇華させようとする行為は、いけばなという表現の根幹を成すものです。命の証としての墓標を記すように、1枚、1枚、稚貝を積み重ねて作られた作品は、辻自身の時間の堆積であり、貝という命の時間の堆積でもあります。一人の華道家が追い求める究極の美の在りようを、私たちも共に見つめる機会となれば幸いです。