本展は、「新しき美の創作 新しき美の発見」をかかげて1930年に芦屋で生まれ、今年創立80周年となる写真グループ「芦屋カメラクラブ」に焦点をあて、その斬新な写真表現の数々を紹介するものです。
1930年前後から写真家たちの関心は、絵画を思わせる叙情的な「芸術写真」から、写真特有の技法を駆使して、写真でしか捉えられない新しいイメージを前面に押し出した「新興写真」へと大きく移り変わり始めていました。東京美術学校臨時写真科を優秀な成績で卒業した中山岩太(1895—1949)は1918年に渡米、1921年にはニューヨークでスタジオを構え、その後パリに渡ってファッション雑誌『フェミナ』の嘱託写真家として活動、当時の最先端のモダニズム文化を存分に吸収しました。1928年に芦屋へ移り住み、まもなくその地でハナヤ勘兵衛(本名桑田和雄、1903-1991)と出会います。大阪生まれで写真器材商に務めていたハナヤは1929年、芦屋に転居し、当時芦屋では唯一の写真材料店を開きました。そこに集った写真愛好家とともに、中山が結成したのが「芦屋カメラクラブ(ACC)」です。
彼らは、1930年から1941年にかけて定期的に展覧会を開き、フォトグラムやフォトモンタージュなどの先端的な手法を積極的に取り入れ、モデルのポーズやライティングにも工夫を凝らして、造形性を重視した作品群を生み出しました。それは、1930年代の新興写真の動向を牽引する一大勢力となり、1932年に東京で創刊された野心的な写真雑誌『光画』でも毎号誌面を飾り、重要な位置を占めたのです。
主に芦屋市立美術博物館所蔵品から選ばれた彼らの代表作品約80点、ガラス乾板や作品掲載雑誌等の関連資料約30点によって構成される本展は、その表現の大胆さや新鮮さと共に、それを生んだ芦屋が持つモダニズムの豊かな土壌を実感していただく機会となるでしょう。