山種美術館は、近代・現代日本画専門の美術館として親しまれていますが、コレクションの中には江戸期の絵画も多く含まれています。2008 年3 月に、当館所蔵の岩佐又兵衛《官女観菊図》が重要文化財の指定を受けたことを記念し、これまでほとんど公開される機会のなかった当館所蔵の江戸絵画を、開館記念特別展第6 弾としてご紹介いたします。
300 年におよぶ泰平の世を謳歌した江戸時代は、それまでの貴族や武士中心に発展してきた日本文化を、一気に庶民のレベルにまで押し広げ、多様性と厚みをもたらしました。当館の江戸絵画コレクションは、数としてはさほど多くはありませんが、うち2 点が重要文化財、3 点が重要美術品であり、江戸絵画史上、重要な位置を占める画派と画家が揃っています。なかでも、酒井抱ほう一いつ《秋あき草くさ鶉うずら図ず》をはじめとする琳派の優品が数多く含まれていることは、注目に値するでしょう。当館創立者・山﨑種二の美術品を蒐集するきっかけが、小僧時代に見た抱一の赤く熟した柿の絵の美しさであったというエピソードからも、彼の抱一への思いの強さが偲しのばれます。
本展覧会では、土佐派の伝土佐光吉、浮世絵の祖と言われた岩佐又兵衛、琳派の俵屋宗そう達たつや酒井抱一、狩野派の狩か野のう常つね信のぶ、円山・四条派の伝長沢芦ろ雪せつ、文人画の池いけの大たい雅が、復古やまと絵の冷れい泉ぜい為ため恭ちかなどの作品を通して、江戸絵画の流れをたどります。