「物語」を表現したり鑑賞するには美術よりも文学・映画・演劇のほうがしっくりくると思われるかもしれません。しかし、素材や手法の自由度が高い現代美術の領域では、意外とさまざまな「物語」とめぐりあえる可能性があります。場合によっては、鑑賞者のイマジネーションで「余白」を埋めていくと思わぬ物語が見えてくるような作品もあります。夏の原美術館コレクション展は、内外のアーティストによるさまざまな写真作品と、大型インスタレーション(草間彌生、ミランダ ジュライ、ジム ランビー)で構成し、美術という形式ならではの物語の可能性に触れていただきたいと思います。昨年ヴェネチアビエンナーレ日本代表に選ばれたやなぎみわは、常に女性を主題にした作品をとして、女性性という物語に目を向けます。また、長年写真界の第一線に立つ荒木経惟の本展出品作品は夫婦の物語となっています。さらに、写真界の最高の栄誉であるハッセルブラッド賞を今年受賞したソフィ カルの作品は、自身の失恋体験を通して心の痛みと治癒を視覚的に作品化しました。そして、映画監督・女優としても知られるミランダ ジュライのインスタレーションは、生への内省を廊下という空間に凝縮したユニークな作品です。この夏は、アーティストたちによる、さまざまなかたちの「美術な物語」をお楽しみください。