古代より薬用・食用の識別の目的で描かれてきた植物画が、アートとして成立するきっかけをつくったのが大航海時代でした。航海によって世界各地から珍しい植物が持ち込まれ、特にエキゾティックな花や草木への関心が高まっていきました。これらの貴重な植物は、植物学者や博物絵師によって詳細に記録され、エングレーヴィングという技法の銅版画で仕上げられました。緻密で美しく描写されたそれらは、当時盛んに出版されるようになった植物図鑑の挿絵や紹介資料として珍重され、王侯貴族や富裕層に広く親しまれました。
18~19世紀になるとガーデニングの流行とともに、植物画はやがて資料としての役割を超えて、その美しさから美術的鑑賞の対象にもされるようになります。その後、写真製版技術の発達によって挿絵としてはあまり用いられなくなりますが、熟練職人によって刻まれ、手彩色で仕上げられた作品は、現代もボタニカル・アートとして大きな魅力を放っています。
本展では、ウィリアム・カーティスが出版した『ボタニカル・マガジン』、ベンジャミン・モーンドが出版した『ボタニック・ガーデン』や『ボタニスト』などの植物図鑑に掲載されたエングレーヴィング作品を中心に、18~19世紀にイギリスで制作されたボタニカル・アートの一端をご紹介します。
さらに植物画だけでなく。バードウォッチングを愛好したイギリスならではの鳥類図、ロマンティシズム溢れる風景画などを併せて展観し、近代博物学が果たした役割を確認していきます。これらのオリジナル版画作品こそ、現代に通じる情報化社会の出発点といえるでしょう。