東京都現代美術館「MOTコレクション」では約4000点にのぼる収蔵品を核に、「現代美術」についての理解を深めるため、多角的な視点からテーマを設けてこれを紹介しています。今期は、当館のコレクションと新収蔵品を併せて紹介する企画として、「Plastic Memories:いまを照らす方法」を開催します。
絵画の起源について、プリニウスは「博物学」のなかで、ある娘が遠くへ旅立つ恋人の姿を留めるために、灯りのもと壁に映ったその影をなぞったことにあると語っています。これは事実というよりはひとつの物語にすぎませんが、過ぎ去っていく時間を留め、永遠のものとして残したいという望みは、いつの時代も人を表現することへと駆り立ててきたといえるでしょう。それらが芸術作品と呼ばれるものに結実したとき、「記憶」は多くの人に共有されるものとして生まれ変わることになります。
「Plastic Memories(可塑的な記憶)」と題した本展覧会は、もとの場所と時間から切り離され、アーティストの想像力のなかで自由に形作られる素材としての記憶をテーマに、「現代美術」のひとつの側面に光を当てるものです。ここには、個人の経験から立ち上げられたものばかりではなく、歴史として共同体が有しているもの、物質や場所に宿っているものなど、様々なかたちの記憶が集められています。
ときに現実とファンタジーのあいだをたゆたいつつ、記憶がもたらすイメージを辿るうちに、私たちはいつのまにか、それを甦らせている現在の時間を意識することになるはずです。光が闇の存在によってはじめて目に見えるものになるように、日々過ぎ去っていく「いま」という瞬間は、過去を足がかりにしてしか捕まえることができないものなのかもしれません。過去から現在、そして未来へと位相を移していく本展示を通して、「いま」を照らし出す方法について、あるいは「現代美術」という名の、私たちの生きる時代の表現について、考えるきっかけを得ていただければ幸いです。